自筆証書遺言保管制度
遺言書が紛失したり改ざんされたりする心配はありませんか?2020年にスタートした「自筆証書遺言書保管制度」なら、法務局があなたの遺言を責任を持って保管します。安心して次の世代に財産を引き継ぐための新しい選択肢です。
遺言書の種類と自筆証書遺言書の特徴
自筆証書遺言
ご自身で全文を手書きし、押印する方式です。2019年からは財産目録のみパソコン作成も可能になりました。費用がかからず秘密にできる反面、無効リスクや紛失・改ざんの恐れがあります。
公正証書遺言
公証人の立会いのもと作成する方式です。法的に確実ですが、費用がかかり、完全な秘密保持が難しい場合があります。
秘密証書遺言
内容を秘密にしたまま公証人に保管してもらう方式です。ほとんど利用されていません。
自筆証書遺言は手軽に作成できる一方で、従来は自宅保管が一般的だったため紛失や改ざんのリスクがありました。新しい保管制度はこの弱点を解消します。
自筆証書遺言書保管制度の誕生と目的
2020年7月10日から全国312か所の法務局でスタートした新しい制度です。これまで自宅で保管されることが多かった自筆証書遺言書を、法務局が責任を持って保管します。
紛失防止
遺言書の原本と画像データを法務局が厳重に保管します。自然災害や事故、単なる紛失などのリスクから大切な遺言を守ります。
改ざん防止
第三者による偽造や改ざんのリスクを排除します。相続開始後も原本と同一の内容が確実に伝わります。
意思の尊重
遺言者の最後の意思を確実に守ります。大切な財産が遺言者の希望通りに引き継がれることを支援します。
制度の主なメリット
安全な保管
法務局で適切に保管されるため、紛失や改ざんの心配がありません。大切な遺言書が確実に守られます。
形式的チェック
法務局職員による形式的チェックで無効リスクを減らせます(ただし有効性は完全に保証されません)。
確実な発見
遺言者死亡時に指定者へ保管通知が届き、遺言書の発見漏れを防止できます。相続人全員に通知されるため、遺言の存在が確実に伝わります。
検認不要
家庭裁判所での検認手続きが不要になり、相続手続きがスムーズに進みます。これにより時間と費用の節約になります。
これらのメリットにより、自筆証書遺言の最大の弱点だった「保管の不安」が解消され、より安心して遺言を残せるようになりました。
自筆証書遺言書の作成時の注意点
全文自筆
財産目録以外は全て自分の手で書く必要があります。代筆や印刷は無効になりますのでご注意ください。
押印
必ず実印ではなく認印でも構いませんが、押印が必要です。押し忘れがないようご確認ください。
訂正方法
訂正箇所には二重線を引き、訂正印を押します。訂正箇所を指摘し署名します。訂正方法を間違えると、訂正箇所が原則無効になりますので注意が必要です。
具体的記載
財産や相続人は具体的に記載します。「自宅は南側を長男に」のような抽象的な表現は避けましょう。
財産目録をパソコンで作成する場合は、各ページに署名と押印が必要です。正確さを期すため、専門家に相談することをお勧めします。
保管制度利用時の遺言書様式のルール
1
用紙サイズ
A4サイズ白紙(罫線可)
片面のみ使用
余白は上下左右十分確保
2
書き方
黒色の筆記具(ボールペンなど)を使用し、文字や数字が容易に読み取れるように書きましょう。鉛筆や消えるボールペン等は使用しないようお願いします。
3
綴じ方
複数枚ある場合は、綴じずにバラバラの状態で提出します。法務局で一括管理するため、ホチキスやクリップでの綴じは不要です。
法務局への遺言書預け入れ手続き
1
予約
最寄りの法務局(遺言書保管所)に予約。電話やインターネットで事前に予約が必要です。
2
必要なもの
本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
住民票
遺言書(本文と財産目録)
申請書(法務局で記入可能)
手数料3,900円
3
持参
本人が遺言書を法務局へ持参(代理不可)。必ず遺言者本人が出向く必要があります。
4
形式チェック
法務局職員が遺言書の形式をチェック。不備があれば修正を求められることがあります。
申請1件(遺言書1通)につき、
3,900円
の手数料がかかります。問題なければ保管され、保管証が交付されます。この保管証は大切に保管しておきましょう。
遺言者死亡後の手続きと相続人の権利
1
1. 死亡の連絡
相続人等が法務局に遺言者の死亡を連絡します(死亡届の写しなどが必要)。
2
2. 通知送付
法務局が指定された相続人等に遺言書保管の通知を送付します。遺言の存在が確実に伝わります。
3
3. 閲覧・写しの請求
相続人等は遺言書の閲覧や写しの交付を請求できます。相続人であることを証明する書類が必要です。
4
4. 相続手続き
検認不要で、遺言内容に基づく名義変更や預貯金の払い戻しなどが迅速に行えます。
法務局の保管証明書があれば、家庭裁判所での検認手続きが不要となり、相続手続きがスムーズに進みます。これにより、相続人の負担が大きく軽減されます。
利用にあたっての注意点とよくある誤解
内容の有効性は保証されない
保管制度は形式面のチェックのみで、遺言内容の法的妥当性は保証されません。内容面については専門家(弁護士・司法書士など)に相談することをお勧めします。
内容変更には再申請が必要
遺言書の内容を変更したい場合は、新たに作成し直して再度保管手続きが必要です。保管済みの遺言書を修正することはできません。変更の際は新たに3,900円の手数料がかかります。
争いを完全に防ぐものではない
保管制度を利用しても、遺言内容自体に問題があれば相続争いが起こる可能性があります。遺留分の問題などは別途考慮が必要です。
制度を正しく理解し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら利用することが大切です。特に財産が多い場合や家族関係が複雑な場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。
相続が発生したら
取得できる書類
遺言書の閲覧
:相続人等は法務局で遺言書を閲覧できます。
遺言保管事実証明書
:遺言書が法務局に保管されていることを証明する書類です。
遺言情報証明書
:遺言書の内容を証明する書類です。原本の代わりとして使用できます。
受け取る通知
死亡通知(指定者宛て)
:遺言者が生前に指定した人に、遺言書が保管されている旨を通知します。
相続人等への通知
:閲覧等の請求があった場合、推定相続人や受遺者、遺言執行者等に対して遺言書が保管されている旨を通知します。
*遺言情報証明書は、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなど、様々な相続手続きで原本の代わりとして利用できます。必要な場合は法務局で発行を請求しましょう。
*検認不要の仕組み
:法務局保管の遺言書は家庭裁判所での検認が不要ですが、閲覧、証明書の取得により、法務局から相続人への通知は自動的に行われます。遺言の存在を隠すことはできません。